東京、大井町駅の西側。繁華街の雑踏を抜け、駅から8分ほど歩いた住宅地。この落ち着いたエリアに、和食割烹と日本酒ペアリングのお店「酒膳さめしま」があります。2022年3月3日、大井町駅の東側にあった旧店舗からの移転というかたちで、新装オープンしました(ちなみにここ新天地の住所が大井3-3-3であることから、オープン日を3月3日にしたとか)。

 

お店を切り盛りするのは、唎酒師の鮫島智世さんと料理人の大志さんのご夫婦です。事業主は奥さんの智世さん。その知世さんの始めるお店に、旦那さんの大志さんが料理人としてサポートしています。

 

2人はどう出会い、和食割烹と日本酒ペアリングというコンセプトはどう生まれたのか? お店立ち上げまでの物語と、店舗内装へのこだわりなど、お話を伺ってきました。

(2022年3月21日 取材)

 


— まずはどんなお店か、ご紹介お願いします。

鮫島智世さん(以下、智世)

日本料理と日本酒のペアリングのお店です。大将の主人が料理を作って、それに合わせて日本酒を提供するお店です。

 

— 日本酒ペアリングのお店もいろいろある中で、鮫島さんのお店はどんなところに特徴があるんですか?

智世

コースのお料理一品ごとに合わせて日本酒をお出ししてるんですけど、お客様の好みに合わせて、冷酒だったりお燗だったり、温度を変えながら提供するなど臨機応変に提供しています。

あと特徴といえば、ゆったりとした癒しの空間、くつろげる空間というのを大切にしているところも、そうかなと思います。

 

— どういった経緯でこのお店を作ろうと思われたんですか?

智世

主人と私とは、自分たちのお店を持つ前から2人で同じ店に勤務してたんです。そのときに、料理と日本酒を合わせることに関して、2人で意見が一致して、それで「2人でもっといい自分たちのお店を作ろう」ってなって、独立したんです。

 

— 同じ職場で知り合われて、お2人が結婚されてから、このお店のコンセプトが作られていったんですね?

智世

はい、そうです。

 

— 智世さんは、ずっとサービスの方を?

智世

サービスと日本酒ですね。唎酒師で、お客様の好みを聞いたりしながら、日本酒のお勧めをお出ししてっていう。

 

— 旦那さんはずっと料理の方を?

鮫島大志さん(以下、大志)

はい、そうです。

 

— そして独立前に勤められてた会社で、料理人とサービスという立場で二人が知り合われたということですね?

大志

そうです。僕が店長をしていたお店に、彼女がアルバイトで面接に来て、それから。

 

— そのときは智世さんまだ唎酒師ではなかった?

智世

唎酒師でした。

大志

唎酒師として採用したんです。お店にとっても、これはいいなと思って。

それで独立を考えたときに、ペアリングをコンセプトの柱にしたんです。

今でこそ日本酒ペアリングのお店は多いけど、当時は意外と少なかったんです。

 

— 独立してペアリングのお店を始められたのはいつですか?

智世

5年前、2017年ですね。そのときは珍しがられました。

 

— ちなみに智世さんはどういう流れで日本酒に興味を持ち、今に至っているのですか?

智世

最初はとにかく日本酒が好きで、趣味で日本酒をいろいろ飲んでたんです。その趣味が昂じて、唎酒師の資格も取りたいなと思うようになって、日本酒の勉強を始めたんですね。

 

— そのころは何をやられてたんですか?

智世

ぜんぜん飲食とは関係なくて、テレビの番組制作の仕事をしてたんです。

ただ普通に食べることや飲むことが好きで、そんな中でも特に日本酒が好きになって、できたら何か日本酒に関わる仕事に就きたいなあ、自分で日本酒のお店を開きたいなあっていう、ざっくりとした思いを抱くようになっていったんですね。

それで制作会社を辞めて飲食業の世界に入ったんです。調理の仕事も少しかじったりはしたんですけど、やっぱり自分は日本酒をお勧めしていきたいっていうことで、日本酒専門のバーだったり飲み屋さんだったりをいくつか回ったんです。

 

— アルバイトで、ですか?

智世

アルバイトですね。そのとき28歳で。新しい世界に入るにはちょっと年齢的に遅いスタートだったので、いろいろなお店を知って経験しなくちゃと思いまして。それでお店を掛け持ちできるように、アルバイトでやってました。

何店舗かで働くうちに「独立したいな」という気持ちが改めて高まってきて。それで独立に向けて、しっかりした和食屋さんというか、割烹のお店に入ってちゃんと学ぼうと思って、アルバイトに応募したら、そのお店に主人がいたんです。

 

— ちなみにそもそも日本酒を好きになったきっかけは何だったんですか?

智世

あるお花見に行きまして。みんなでビールを飲んでるんですけど、そこへたまたま日本酒を持ってきた人がいたんです。今までも日本酒は飲んではいたんですけど、そんなに美味しいとは思わなかったんです。でも、そこで飲んだ日本酒がすごく美味しかったんです。「美味しい日本酒は、すごく美味しいんだな」「飲む環境によっても変わってくるんだ」というのを知って。

そこから日本酒に興味を持つようになって、自分でもいい日本酒を選んで飲むようになっていき、どんどんハマっていったっていう。

 

— 大志さんの料理にはどんな特徴があるんですか?

大志

シンプルな素材を使って、その素材の魅力を丁寧に引き出すようにしてます。

派手さはないんですけど、出汁にかなり力を入れてまして、何気なく食べても出汁の美味しさがじわっと感じられる。余韻で美味しいと感じる料理。シンプルで綺麗な味を目指して作ってます。

 

— どうして人生のパートナーにお互い選んだのですか?

大志

僕の一目惚れなんですけど。

智世

それで採用してくれたみたいです(笑)

 

— 当時のお店は他にも何人かスタッフさんはおられたんですか?

大志

はい。

智世

でも結局、人が辞めていく中、最後まで残ったのが私で、最後の方はそのお店を2人で切り盛りするような感じになって。

大志

人が辞めていく辛いときにも、彼女はずっと一緒にいてくれたんです。それが結婚の決め手ですね。

 

— そして独立して最初のお店をオープンしたのが2017年の5月。場所はどちらで?

智世

駅(大井町駅)の反対側(東側)にありました。

 

— 今回こちら(大井町駅の西側)に移転オープンしたのはなぜですか?

大志

前の店舗は建物自体が古かったのもあったし、面積が5坪もなかったんですよ。それがコロナになり密を避けるよう言われるようになって。こうなると結局、お店が狭すぎるんですね。それが移転を決めた理由ですね。

 

— ちなみにオーナーは奥さんなんですね?

智世

事業主が私なんです。もともと私の方に独立願望があって、私がお店を開きたいっていうので始めたので。

 

— そこへ旦那さんが料理人として協力するっていう?

智世

そうですね。あと、わたしが経営だったりそういう面をやることで、旦那には料理に専念してもらえるっていうのもあって。

 

— 飲食は物件探しに苦労される人が多いですが、そこはどうでしたか?

智世

ここの場所は以前からお話をいただいてたんです。うちのお客さんで不動産屋さんの方がいて、その方から、「新しくビルを建てるんですけど、入りませんか?」って。でも、そのあとにコロナが始まったので保留してたんです。

そうしている間にも物件はほかにもいろいろ見たりはしたんですけど、結局、やっぱりここがいいなあってなって。せっかくお話もいただいていたので、それでここに決めました。

 

— 内装施工に山翠舎を選んだのはどういった経緯があったのですか?

大志

きっかけはインスタグラムです。グーグルで「飲食店、内装」とかで検索して、それが派生していくなかで最終的に山翠舎さんのインスタに行き着いて。写真も文章もいいなあと思って。ホームページもしっかり書かれてるし、信頼ができそうだなと。

それで一度お話を聞きに行こうってなって、恵比寿の事務所に伺ったんです。そしたら店舗づくりについてトータルで説明してくださって、借入の面もサポートしてもらったり。

前回の店は借入なしで自己資金だけでオープンさせたので、借入返済の実績がないわけです。だから借りるときのハードルが高かったんです。なので非常に助かりました。

 

— 内装でこだわったところは?

智世

まずカウンターと椅子ですかね。カウンターで席が一列になるお店にしたかったんです。カウンターの幅も広くて、耳付きにしてもらいました。あとはゆったり座れる椅子も気に入ってます。

大志

ほかにも、デザイナーの水越さんが壁の角、Rにこだわられて、丸みを帯びたデザインになってるのも特徴です。

 

智世

水越さんは私たちの意見をよく反映してくれると言うか、気持ちが通じるというか。こうしたいと思ったものをその通りだったり、もっといいものにしてくれたりで、満足の内装です。

前のお店よりも内装も中身もパワーアップしてよりいい店になってるので、お客様にはそれをぜひ感じて欲しいです。

 

— これからどんなお店にしていきたいですか?

智世

何よりも、ゆっくり落ち着けて、和食と日本酒が好きな方に来てもらえるようなお店として、いろんな人に知ってもらいたいなと思います。

お客さんはご近所の方が多いんですけど、遠方の方もうちを目指して来てくれるような、そんなお店にしていきたいです。

大志

日本酒ペアリングのお店として、もっといろんな人に知ってもらいたいですね。「都内で日本酒を飲むならここだ」っていう感じになりたいですね。

— 今日はありがとうございました。