原料調達から印刷、廃棄、リサイクルまで、環境負荷の削減に取り組んでいる大川印刷(本社・横浜市)さん。
横浜駅前にある同社横浜営業所の一画が、2021年3月、動画収録配信やワークショップ、イベント開催のスタジオスペースとしてリニューアルオープンしました。
翌2022年3月からは「with GREEN PRINTING」の名称をもって本格オープンし、“社会課題解決型スタジオ”と銘打ち、より良い社会をつくるためのハブとなる場所づくりを進めています。
スタジオを訪ね、同社の営業企画デザインリーダーでありこのプロジェクトの責任者でもある今井俊志さんにお話を伺ってきました。(2023年4月10日 取材)
— どんな経緯があってこのスタジオを作ろうとなったのですか?
もともと弊社の営業所だったんですね。
ここに17席くらい営業の席があったんですけど、コロナでテレワークのメンバーが増え、ほぼ空いた状態になっちゃったんです。
じゃあ何らかの形で活用しよう、と。
もともと情報の受発信ができる場所を作りたいっていうのが会社としてあったものですから、じゃあ動画配信できる場所をここに作ろうってなったんです。
動画配信以外にも、“社会課題解決型スタジオ”というコンセプトで、ここにきたら社会課題に関する正しい情報が受信できるし、発信もできる場所にしようと。
入り口の棚に飾っているものは製品として展示販売しているんですけど、社会課題に資するような製品を選んで置かせていただいてるんです。
そうした情報の受発信ができる場所にすることで、社会課題や環境といったことに高い意識を持つ人たちが集まり繋がる、そういうハブになる場所にしていきたいと思って作ったんです。
— 実際みなさん、どんなケースでこのスタジオを使われていますか?
多いのはセミナー系ですね。
例えば、テクニカルショウヨコハマという工業見本市があるんですけど、コロナ真っ只中の時期、対面リアルの形でセミナー開催ができないというので、脱炭素の取り組みなどについてこのスタジオで収録して配信したりとか。
あと弊社の企画になるのですが、バナナペーパーといった環境に優しい紙を紹介する動画配信をしたり。
— バナナペーパーというのはどんな紙ですか?
バナナの茎の繊維から作った紙なんですけど、ストーリーが深いんです。
サンビアで採られるバナナの茎を使うんですけど、バナナっていうのは一年草で、実を採ったら他は捨てちゃうんです。
それを捨てずに紙の原料として利用しようっていうことと併せて、ザンビアの女性の就労支援も行っているんですね。
茎を採集する仕事を現地でやっているんです。そういう社会的にも意味のある紙を紹介する動画コンテンツを作ったり。
ほかにも、SDGs経営を推進していく団体の事例紹介の動画を収録したり、ライブ配信したりしてます。
— オープンしたのが2021年の3月8日ですね?
はい。この場所で動画配信をやっていこうというのは2021年のオープン時に決まっていたんですが、『with GREEN PRINTING』という名称を決めたりロゴデザインを作ったりと、コンセプトもしっかり言語化して、あらためてスタートを切ったのは去年(2022年)の3月です。
— 内装で特にこだわったポイントはありますか?
企業が動画配信を始めましたってなると、会議室とか応接室とか味気ない背景になることが多いので、そこはちょっと特徴的なものにしたいっていうのがまず自分の中にあったんですね。
弊社のブランディングのイメージに、音楽のブルーズがありまして、ちょっと古くて枯れた味わいがあるようなイメージ、その中でおしゃれにしたいなっていうのがあったんです。
それと、弊社ではずっと環境という課題に取り組んできたので、なるべく環境に負荷のかからない空間を作りたいなっていうのがありました。
それで、山翠舎さんとは以前よりお付き合いがあったので、山翠舎さんの古民家廃材を利用できるのはコンセプトに合うんじゃないかと思って相談させていただいたんです。
— そのイメージを具現化したポイントとなるべき場所といえば、やはり動画の背景になる古木の壁でしょうか?
山翠舎さんの施工事例を見せていただいて、一番イメージに近しいのがこれだ!っていうことで、こういう壁に仕上げていただきました。
あとは、空間をカフェっぽくしたいっていうのがあって。ふらっと入ってきて、ここで座ってご飯を食べてもいいし、打ち合わせをしてもいい。
そんなくつろげるカフェのような雰囲気にしたいなっていうので、提案いただいたのが工事用の足場の廃材を活用した丸テーブルです。
足場の廃材なのでペンキがついてたりして、これも雰囲気に合っていて面白いなと。
いろんな内装材を再利用しているっていうのは大事なところですね。
何か新しいものを作るにしても、なるべく環境に負荷を与えないでおしゃれなものができる、その点は強く意識したところです。
— カーペットもリユースなんですよね?
そうです。オフィスや展示会で使用されたカーペットは基本的に一度使われたら捨てられちゃうんですね。
それを洗浄して再利用する、そういうことをやられている協力会社さんがいらっしゃったのでお願いしました。
使ったのは展示会に使われたカーペットです。
展示会なんてもう3日、4日やったら、本来それで捨ててしまう。
そうではなく、捨てられないように、ゴミを増やさないようにしたいなと。
あと、電力もカーボンオフセットしているので、使った分の電力を、自然エネルギーで発電している電力を購入することで相殺しているんです。
こうやって環境に配慮したスタジオなんだと、そのコンセプトを理解して使っていただくお客様もいて、一つの特徴づけとアピールに繋がっていると思います。
— できあがった空間を見て、どう感じましたか?
やってよかったなって思いましたね。
オフィスに木があるだけでも随分違う。配信場所として背景が違うだけで差別化もできますし、うちの特徴を出せたと思います。
お客さんもここで動画配信してもらうと「with GREEN PRINTINGから配信してるんだな」って、知ってる人が見たら伝わりますしね。
— そもそもなぜ動画配信でいこうと考えられたんですか?
うちは印刷会社なんですけど、時代がペーパーレス化になっていく中で、新しい事業を起こさないといけないっていうことがまず一つあったんです。そこで動画配信に挑戦しようと。
あと弊社の基本理念の中に、「情報産業の中核として信頼に応える技術力と喜びを分かち合えるものづくりの実現」というのがあるんですね。
情報産業の一つとしてものを伝えるという意味で、印刷物を作ることと、動画を作って配信することはリンクしてくるなと。
— 印刷部門の縮小は大川印刷さんでも傾向としてあるんですか?
影響は徐々に出てきてますね。
例えば薬品の添付文章、効能書きのような薄紙の印刷が減ってきたりしてますので。「詳しくはネットで見てくださいね」っていうところも増えてきてます。
どうしてもネットの情報の速さは印刷物だと敵わないじゃないですか。そういう状況の中でうちは何ができるのかを模索してるところです。
— 映画上映会もここでやられているんですね?
ユナイテッドピープルさんの上映可能な作品のサブスクみたいなものがあって、それを利用させていただき上映会も開催しています。
ユナイテッドピープルさんとはもともとお付き合いがあったのと、うちの社員でずっと他の上映会に参加している者がいて、ここだったらできるんじゃないかっていうので。
— 環境に絡んだ映画の上映もやられていますね。
そうですね。毎月上映は行うようにしてて、上映後には交流会も必ず設けるようにしています。参加者同士で映画の感想を伝え合ったりして、人同士の繋がりも作っていける、そんなハブになる場所作りをしています。
— 今後、こういうことができたらいいなとか、展開をイメージしてることはありますか?
基本、場所貸しだったり動画配信スペースとしての貸し出しだったり、自分たちが配信のお手伝いもできるのでお手伝いをしたり、そういうことをやっていくのを主たる目的として作ったんですけど、
まだそこが事業として波に乗ってないところがあるので、採算がとれるようにもっていきたいなと思ってます。
あとは、もっともっといろんな広いつながりをこの場所で作って行きたいなと思ってます。
— 今日はありがとうございました。